研究概要 |
細胞内小器官ペルオキシソームは真核細胞に特徴的な小器官で、脂肪酸の代謝やそれに伴って生成する過酸化水素の分解などを行い、ある特定の条件下でのみ細胞内に多数発達する誘導発達型の細胞内小器官である。酵母Candida tropicalisではn^-アルカン生育時に、また、パン酵母Saccharomyces cerevisiaeではオレイン酸生育時にこのペルオキシソームの発達が見られ、この過程にはペルオキシソーム膜タンパクやマトリックスタンパクの合成ならびにそれらのペルオキシソームへの輸送、膜の発達・分裂といった重要な要素が含まれている。酵母S.cerevisiaeでは、こういったペルオキシソーム形成に必要なペルオキシンと呼ばれる分子がいくつか報告されているが、これらの発現は、ペルオキシソームの発達過程におけるペルオキシソーム内の代謝に関わるマトリックスタンパクの発現とその情報伝達系を一部共有していると考えられた。このペルオキシソーム形成の分子情報伝達を解明していくために、酵母C.tropicalisのペルオキシソーム内の代謝関連酵素群の遺伝子構造とその発現制御を解析するとともに、酵母S,cerevisiaeから、これまで報告例のない新しい情報伝達系の存在を明らかにした。この系には、ペルオキシソーム酵素の誘導と関わるグルコース抑制・脱抑制に寄与し、しかもミトコンドリアに輸送局在化して呼吸と密接に関連のある新規な制御囚子Fil1が存在することを明らかにした。これにより、従来の細胞外から核に至る情報伝達だけでなく、ミトコンドリアを介した情報伝達系も、ペルオキシソーム形成に関わることが初めて明らかになった。
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