我々は有用な腸内細菌である乳酸菌が腸内に留まる分子的なメカニズムの解明が必要であると考え、乳酸菌が「糖鎖」を介して宿主に接着すると言う仮定のもとで研究を行って来た。その結果、乳酸菌(Lactobacillus 属)もウイルスや病原性細菌と同様に糖脂質の「糖鎖」に結合し、さらに、乳酸菌の膜表層に“糖鎖を認識する受容タンパク質"が存在することを見出した本研究では、本タンパク質について解析するとともに、遺伝子クローニングを試み、乳酸菌セラピーの実現に向けて細胞との接着能の強い乳酸菌を取得することを目的とした。 Lactobacillus caseiのゲノムDNAを制限酵素Sau3AIで部分消化して得られたDNA断片を、BamHIで処理したCharomidベクターに繋ぎ、これをλファージを介して大腸菌DH5αに導入してゲノムライブラリーを構築した。本タンパク質はスフィンゴ糖脂質のGA_1(Galβ1‐3GalNAcβ1-4Galβ1-4Glcβl-1′Ceramide)の糖鎖に強く接着することを見出しているので、G_<A1>と抗G_<A1>モノクローナル抗体を用いたImmunoblottingによって特定し単離した本タンパク質のN末端アミノ酸配列由来のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、L.caseiのゲノムライブラリーをスクリーニングした。得られた陽性クローンの中でCHlと命名したクローンの制限酵素地図を作成し、同じプローブを用いたサザンブロッティング解析によって陽性断片の位置を決めた。陽性断片3.0kb EcoRI断片をpUC18ベクターを用いてサブクローニングした後、塩基配列を決定したところ、本タンパク質のN末端アミノ酸配列をコードするORFを見出した。本遺伝子を含む組換えプラスミドpR3Eを有する大腸菌DH5αの無細胞抽出液についてゲル電気泳動を行ったところ、L.caseiの受容タンパク質とほぼ同じ分子サイズの位置に強くタンパク質が発現していることを見出した。さらに、この無細胞抽出液について、G_<A1>と抗G_<A1>モノクローナル抗体を用いたImmunoblottingを行ったところ、発現タンパク質に相当する位置に微弱ながら染色が認められた。また、組換え大腸菌をLiClで処理後、超音波破砕して、細胞表層画分と細胞質画分に分画し、それぞれについてゲル電気泳動を行った結果、いずれの画分にも、L.caseiの受容ダンパク質と同じ分子サイズの位置にタンパク質のバンドが見られた。また、L.caseiの両画分にも本タンパク質が存在していることを確認した。
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