補体C3aは補体系の活性化の際に分子量19万の補体C3のN末端から派生する77残基のペプチドである。C3aは免疫系および平滑筋に作用することが知られていたが、我々は新たに抗オピイド作用などの中枢作用を示すことを見出した。我々は補体C3aレセプターを介して回腸収縮活性や抗オピオイド活性を示すC3aアゴニストペプチドをカゼインおよび米タンパク質など食品タンパク質のトリプシン消化物から単離してきたが、同様なペプチドはヘモグロビン、血清アルブミン、ヒストン等多様なタンパク質から派生することも新たに判明した。これらのペプチドはC末端に疎水性残基-X_1-Leu-X_2-ArgというC3aと共通の配列を有しており、このためにC3aレセプターに対して親和性を示すものと考えられる。また、既知の各種生理活性ペプチド中にも上記条件を満たし、C3a活性を示し得る配列が潜在的に存在することを合成ペプチドにより見出した。なお、上記条件を満たすにもかかわらずC3a活性を示さない場合があることから、上記条件は活性発現のための必要条件ではあるが十分条件ではない。 C3a活性を示す配列がタンパク質中に高頻度で、しかも動物のみならず植物や微生物由来タンパク質中にも存在することから考えて、これらの配列が示すC3a活性がすべて生物学的にプログラムされたものであると考えるには無理がある。上記条件を満たす配列がランダムペプチドライブラリー中に存在する確率は1/3x1/20x1/20x=1/1200となる。一方、ランダムDNAによって上記条件を満たす配列がコードされる確率を計算すると、上記必要条件に含まれるLeuおよびArgはいずれも対応するコドンを6種類有するアミノ酸であるため、1/3x6/64x6/64=1/341というかなり大きい値になる。いずれの方法で計算しても20^5=3.2x10^6種類存在するペンタペプチドの中にはC3a活性を示し得るものが多数存在し得ることを意味しているが、これらの中の限られたものが生理的な意義を有するものと考えられる。
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