ピリジン環誘導体には種々の生理活性を示すものが多い。我々は、ピリジン環の位置特異的水酸化反応は化学合成では困難なため、微生物触媒を用いた水酸化反応を検討してきた。ニコチン酸の微生物代謝はその6位に水酸基が導入され、6-ヒドロキシニコチン酸を経て分解代謝される。6-ヒドロキシニコチン酸は最近開発されたニコチニル系殺虫剤をはじめ化学合成の基本骨格として有用であることから、我々は、既に6-ヒドロキシニコチン酸の酵素的生産法を確立した。一方、ニコチン酸の2位の水酸化反応はこれまでの微生物のニコチン酸代謝経路にはないものであり、ニコチン酸を用いた集積培養では、6位を水酸化する菌だけしか分離できない。そこで6位がメチル基でマスクされた化合物6-メチルニコチン酸を単一炭素源として集積培養を行い2位水酸化活性を示す微生物の分離を試みた。長期間にわたる集積培養によって活性菌を得ることができたが、この活性菌はCandida属酵母とSphingomonas属細菌の混合物であることを明らかにした。それぞれ単一菌では、6-メチルニコチン酸には生育できないが、混合することによって初めて生育することができるた。得られた菌体は、強い6-メチルニコチン酸2位水酸化活性を示し、また同時に本活性菌体はニコチン酸にも作用し、2-ヒドロキシニコチン酸を生成した。本酵母と細菌の共生関係はいかなるものか。それぞれの菌株を種々の培地で純粋培養しても、単一菌では本水酸化活性は発現しない。種培養から混合培養を開始すると、本水酸化活性が認められた。単に栄養要求の相補的な関係で説明できない酵母と細菌の新しい絡み合あいにより協奏的水素化反応が進むと考えられた。
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