(1)酢酸の過酸化に関係している酵素の活性発現調節機構の解明 培地中の利用可能な炭素源やエネルギー源が涸渇すると、酢酸菌は培地中に蓄積していた酢酸を利用して生育を示す。これが酢酸の過酸化現象であって、これにはエネルギー生成系としていかなる代謝系が作用しているか現在不明であるが、これによってアセチルCoA合成が起ることで、酢酸菌の生育が促される。この系に直接作用するアセチルCoA合成酵素や、アセトキナーゼとホスホトランスアセチラーゼの各酵素活性は予想以上には活性化されない結果を与えた。実験系の再確認とは別に、別の基質がTCA経路に流入する可能性を実験で検証することも必要であることが判明した。グルコキナーゼとグリセロキナーゼのATPに対する酵素反応動力学的解析では、グリセロキナーゼがATP濃度に対してアロステリックに作用するという、新しい知見が得られた。 (2)酢酸の過酸化過程における酢酸菌の形質の変換機構の解明 酢酸醗酵の経過と培地中の生菌数の推移を調査した結果、培養初期には耐酸性の細胞が急激に減少し、耐酸性酢酸菌が優勢になる。アルコールが完全に酸化されて酢酸に変換された後も、耐酸性の酢酸菌が依然として優勢に推移した。しかし、数十時間の後に、急激に酢酸の減少と逆相関的に酢酸菌の生育が見られ、酢酸の過酸化状態に陥った。同時に酢酸耐性に乏しい酢酸菌が優勢を占めるようになった。このように、同じ菌株がその環境に合せて形質を転換することが観察された。今後、この機構について分子生物学的な解析を進める。 (3)酢酸の過酸化能欠損変異株の単離について、現在作業を急いでいる。 上記の研究成果は平成10年度日本農芸化学会大会で発表の予定。
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