エタノールとその酸化生成物である酢酸との間で、酸化醗酵から呼吸へ、即ち、エタノールの不完全酸化から完全酸化への過程に見られる、微生物学的にも生化学的にもたいへん興味ある現象の発生機構の解明を行う。酢酸菌による酢酸の過酸化は古くから知られている現象で、その発生機構を明らかにして、制御法を開発することで、酢酸の過酸化のゆえに、我が国のような酢や寿司の文化をもちえなかった国々に酢の食文化を伝達して食文化の向上に資することを究極の目的としている。 そこで、酢酸の過酸化にさいして活性化される酵素の特定を行った。酢酸からアセチルCoAへの代謝系に存在している3種類の酵素のうち、酢酸を直接アセチルCoAへと変換するアセチルCoA合成酵素が顕著に活性化されることを明らかにした。 アセチルCoAだけが生成されても、細胞増殖には不十分であり、TCAサイクルにアセチルCoAとともに合流する基質の生成に目を向けなければならない。酢酸菌にとって良好な炭素源となるグリセロールの濃度にバイオマス収量が支配されることから、グリセロール代謝系にヒントがあるものと狙いを定めた。 ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼが極微量のアセチルCoAの存在によって、顕著に活性化されグリセロールの利用を促進することがわかった。従って、酢酸の過酸化を工業的に制御するには、仕込み液に含まれるグリセロール濃度を極力制限して、酢酸菌への炭素源を遮断する方法が当面の過酸化防止策であることを明らかにした。さらに、酢酸醗酵過程における酢酸耐性菌及び感受性菌の発現と、それに応答する酵素の特定を現在急いでいる。 上記の研究結果は平成11年度日本農芸化学会大会(3/30〜4/1/99)で発表の予定である。
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