酢酸菌による酢酸発酵は発酵が終了すると速やかに酢酸菌と酢を分離しないで放置しておくと、酢が腐る現象、所謂酢の過酸化が見られる。我が国の食酢製造には酢の過酸化力の微弱な菌株が使用されてきたので、特別な条件下でない限り酢の過酸化は見られない。しかし、気温の高い東南アジア諸国では酢の過酸化は、健康に重要な食酢の摂取を難しくさせていることで深刻な問題を投げかけてきた。 本研究では、食酢の過酸化に関係する酵素の解析から出発して、その反応機構、調節機構を生化学的に、酵素化学的に解明して、食酢の過酸化の起きない条件を示すことを最終目的とした。 手始めに食酢の過酸化が起きやすい菌株をスクリーニングして単離し、それらを使用して過酸化を起しにくい菌株の酵素と比較した。その結果、酢の過酸化に際してアセチルCoA合成酵素(ACS)、及びホスホアセチル転移酵素(PTA)が顕著に活性化されることが明らかになった。次いで、TCA回路を回転させるもうひとつの要素として、何がオキザロ酢酸を作っているのかを明らかにする必要があって、培養実験を繰り返して検証につとめた。その結果、酢の培養に際して添加する酵母エキスに含まれるグリセリンや乳酸からオキザロ酢酸が生成していることをつきとめた。培地中のグリセリン濃度を制限すると、酢の過酸化が抑制されることを示した。次に、グリセリンからオキザロ酢酸の生成に直接関係している酵素、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)を精製してその反応動力学を調べた結果、PEPCはアセチルCoAによって顕著に調節されることを明らかにした。これによって、酢の過酸化に際して、オキザロ酢酸とアセチルCoAが生成してTCA回路を回転させることで、酢の過酸化が起きることと結論できた。
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