研究概要 |
海産無脊椎動物グミ(Cucumaria echinata)のレクチンCEL-IIIは分子量47,500のカルシウム依存性レクチンであるが,ヒトやウサギの赤血球を溶血するという点で他のレクチンには見られない特徴を有している。本研究は,膜傷害活性を有するレクチンCEL-IIIの構造と機能の解明を目的としたものである。平成9年度においては,まず,CEL-IIIの一次構造について検討し,その結果,CEL-IIIのN-末端アミノ酸残基は翻訳後の修飾によりブロックされていることを明らかにするとともに,N-末端領域の約150アミノ酸残基の配列を除く約300アミノ酸残基の配列を決定した。さらに,CEL-IIIは繰り返し構造からなるいくつかのドメインを有することを明らかにした。ついで,新規なレクチン活性測定法を開発して,CEL-IIIの糖鎖認識機構を解析し,CEL-IIIはガラクトースおよびN-アセチルガラクトサミン含有糖鎖を認識するレクチンで,これらの糖鎖構造はCEL-IIIが有する2カ所の糖鎖認識部位によって認識されることを明らかにした。さらに,CEL-IIIと糖鎖との相互作用を分光学的に解祈して,各糖鎖認識部位におけるトリプトファン残基の重要性を示すとともに,化学修飾により,これらの残基を特定した。また,CEL-IIIで溶血した赤血球膜を分析して,CEL-lIIは赤血球膜上の糖鎖を認識した後,会合して6量体を形成することを明らかにした。これらの知見をもとに,赤血球膜モデルとしての人工脂質膜を構築して,CEL-IIIとの相互作用を解析し,CEL-IIIが脂質膜に対してイオン透過性の小孔形成能を有すること,および膜傷害の程度は脂質膜表面の糖鎖構造に依存することを明らかにした。また,脂質膜との相互作用により形成されるCEL-IIIの会合体の高次構造を分光学的に解析した。これらの研究途上で,さらに,CEL-IIIはある種の培養動物細胞に対して細胞毒性を有することを見出した。
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