昆虫フェノールオキシダーゼ活性の調節機構解明のを目的として、本研究室で新たに単離されたフェノールオキシダーゼインヒビターの高次構造解析を進めると同時に、フェノールオキシダーゼそのものの変化、すなわち、フェノールオキシダーゼの会合体形成機構を中心に研究を行った。フェノールオキシダーゼインヒビターについては、確立した化学合成法によって調製した[Tyr32]POIを用い、段階的酵素消化及びジスルフィド結合の部分還元アルキル化を併用することにより分子内ジスルフィド結合の決定を行った。酵素消化によって切断が困難である隣接するCys残基を含む2組のジスルフィド結合は、新規ジスルフィド結合架橋法を用いて合成したフラグメントペプチド標品を、酵素消化物と比較することにより同定した。決定されたPOIの分子内ジスルフィド結合架橋様式は、Cys11-Cys25、Cys18-Cys29、およびCys-24Cys36であった。驚くべき事に、解析された分子内のジスルフィド結合架橋様式は、シスチンノット構造ファミリーに分類される魚食貝や蜘蛛の毒ペプチドと同一のトポロジーを有していた。さらに、決定されたジスルフィド結合架橋様式を束縛因子として考慮した分子動力学、及びエネルギー極小化計算によりPOIの分子構造を推定した。その結果、POIはインヒビター型シスチンノット構造ファミリーに属することが示唆された。また、フェノールオキシダーゼ会合体形成については、イエバエ体液よりフェノールオキシダーゼ会合体形成促進因子の存在を見とめたが、現段階では更なる単離・精製が必要であり、これが如何なる物質であるかは現段階においては不明であり、これまでラテントフェノールオキシダーゼからフェノールオキシダーゼ形成に必須と考えられているアクチベータあるいはファクターNとの関連性についても、さらなる検討が必要であると考える。
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