本研究では、出芽酵母S.cerevistaeにおけるPAF(血小板活性化因子)の生理機能を細胞周期・分化の制御機構との関連より解明することを目的とし、以下の実験を行った。 1.酵母の生活環におけるPAFの産生及びその細胞内分布: (1)細胞周期:酵母を2種類の誘導法(栄養飢餓培養法、薬剤による阻害)により同調培養を行った。同調率は、細胞の出芽及び核(DAPI染色)の状態を、蛍光顕微鏡観察により測定した。各細胞周期の菌体よりエタノール分画抽出法または、細胞分画を行い、各画分よりPAF・前駆体リン脂質を精製・定量した。PAFは、ウサギ洗浄血小板の凝集能により定量を行った。2種類の誘導法の結果は良く似た傾向を示し、PAFは細胞周期G1期に高く、S期に低くなることが明らかとなった。また、G1期にはPAFは細胞表層に多く分布し、培地へも分泌することが明らかとなった。PAF前駆体量は、細胞周期による変動は見られなかった。 (2)接合過程;2種類の接合反応系(i.a細胞をα因子処理した系、ii)a.細胞とα細胞を混合した系)を用い、(1)と同様、PAF及び前駆体の細胞内分布の変動を検討した。その結果、接合初期に見られるPAF産生の亢進は、接合因子及び、Ca^<2+>依存的であることが示唆された。また、PAFは、接合初期には細胞表層に多く分布しているが、後期には細胞内部への割合が多くなる傾向を示した。現在、a因子の分泌に関与する遺伝子STE6の破壊株を作成中であり、さらに、接合過程におけるPAFの産生や生理的意義について解明する予定である。 2.PAFの増殖調節機構の解明:G1期の酵母細胞にPAFを添加して、イノシトールリン脂質代謝への影響を検討した結果、PAF濃度依存的にIP_3濃度が高くなることが明らかとなった。また、PAFのRas-cAMP伝達系への関与(cAMP濃度、細胞膜アデニル酸シクラーゼ活性)についても検討中である。 3.PAF感受性遺伝子のクローニング:PAFによる細胞増殖抑制の無い変異株を取得した。現在、これに、酵母ゲノムの遺伝子を組み込み、PAF感受性遺伝子のクローニングを試みている。
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