研究概要 |
出芽酵母におけるPAF(血小板活性化因子)の生理機能を細胞周期・分化の制御機構との関連より解明することを目的とし,以下の実験を行った。 1. 酵母細胞におけるPAFの産生と細胞内外の動態解析: 9年度は,細胞周期G1期や接合過程初期にPAFの産生が亢進すること,また,PAFは細胞表層に多く分布し,培地へも分泌されることを明らかにした。10年度は,(1)STE6遺伝子破壊株(a細胞)を作製し,α細胞との接合過程におけるPAFの産生と細胞内分布について検討を行った。その結果,破壊株を用いた接合反応系では,野生型株の系に比較して接合過程初期のPAF産生亢進が見られなかった。(2)Ste6pのPAF排出機構への関与について,a細胞の野生型株,及びSTE6破壊株を細胞周期G1期に同調培養し,エタノール分画抽出法により,PAFの細胞内分布を比較した。その結果,野生型株に比較して破壊株では細胞表層のPAF分布割合が低い傾向を示し,Ste6pはa接合因子の分泌のみならず,PAFの形質膜膜内移行にも関与していることが示唆された。 2. 外来性PAFを用いた増殖調節機構の解明: PAFによる細胞増殖抑制の無い変異株を数株取得し,PAF添加による細胞内cAMP濃度や細胞膜アデニル酸シクラーゼ活性,イノシトールリン脂質代謝(IP_3)等への影響を野生型株と比較検討した。その結果,PAFによる酵母細胞の増殖抑制機構はこれらの情報伝達系を介することが示唆された。 3. PAF感受性遺伝子のクローニング: PAF非感受性変異株に酵母ゲノムの遺伝子を組み込み,PAF感受性遺伝子のクローニングを行った。この結果,この遺伝子がコードするたんぱく質はPAFレセプターではなかったが,栄養源を認識しRas-cAMP伝達系にシグナルを伝達する分子であることが判明した。
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