細胞内情報伝達に深く関わる蛋白質の可逆的なリン酸化の研究にかかせない脱リン酸化酵素(PP)に特異的な低分子の阻害剤を開発することを目的とし、ト-トマイシン(TM)関連化合物ト-トマイセチン(TMT)の合成研究を行った。 右セグメントの合成であるが、まず(R)-3-ヒドロキシイソ酪酸メチルエステルから5工程で得られるC8-C12セグメントを酸化後クロチルボレーションを行い、立体選択的にC7位の不斉を導入すると同時に増炭を行った。さらに6工程の官能基変換を経て、鍵化合物C5-C12セグメントを得た後、右側部分を1-ブテンの付加により増炭した。左側部分に高選択的なクロチルボレーションを施した後、エポキシ化、シリル化および位置選択的還元を行い、C5-C15部分のすべての不斉中心および炭素鎖の導入を完了した。最後に残されたのはジエン部の位置選択的導入である。まずパラジウム触媒下アルキンに対するヒドロスズ化を種々検討した。当初ほとんど位置選択性は認められなかったが、5位保護基を種々変えることで95:5と高い選択性で望む異性体を得ることに成功した。このものはDess-Martin酸化により、右セグメントに変換した。 左セグメントは(S)-3-ヒドロキシイソ酪酸メチルエステルを出発原料として、還元、アルデヒドへの酸化の後、Me_2CuLiを用いたキレーション制御下付加反応を行いC18-C21セグメントを合成した。次いでト-トマイシン合成の際調製した酸無水物セグメントを縮合後、MPMエーテルを酸化的に脱保護、Swern酸化を行い左セグメントの合成を完了した。 現在、両セグメントの縮合を検討し、得られた16位エピマ-混合物を用いて、TMTにおいて未決定の16位絶対配置の決定および全合成を行う予定である。
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