研究概要 |
本年度はトートマイセチンの骨格合成を行った。酸無水物部分のカルボン酸の保護基を合成の最後に中性条件下脱保護が行えるアリル基に変え、再度左側セグメントを合成した。既に合成した右セグメントとのアルドール縮合条件を種々検討し、最終的に16位絶対配置を決定するため、比較的選択性の落ちる条件で(LDA,-78℃)反応を行い、7:4の生成比で望む16R体を優先的に得ることができた。 構造上トートマイセチン(TMT)とトニトマイシン(TM)の大きく異なる点は、ジエノンを持つ右側部分構造であることからのこの部分の立体配座解析を行った。ジエメンおよび1,3-anti-ジメチル部分は立体障害のため取りうる配座は限られ、Macro Modelを用いた配座発生・MM2計算の結果、優先的に存在する配座は予想に反し、直線状のジグザグ型配座ではなく、屈曲したものであった。この配座はTMの右側スピロケタール部分と類似しており、TMTの蛋白脱リン酸化酵素阻害活性を期待させるものであった。 TMの各種合成類縁体を用いて脱リン酸化酵素(PP)の阻害活性を調べたところ、PP阻害活性を示す最小単位は酸無水物構造を含み22位までの炭素鎖を持つ化合物であることが判明した。また高い活性を示すためには22位の水酸基が正しい立体配置で存在することが必要であった。さらにこれら化合物の細胞レベルでの作用を調べるためJarkut細胞を用いた実験を行った。興味深いことにアポトーシス活性は右側のスピロケタールを持つ部分構造を持つ化合物に限られ、TMとそのジメチルエステルは同程度の濃度で活性を示した。以上の結果は新規蛋白脱リン酸化酵素阻害剤の開発上の重要な知見と考えられる。
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