1)蛋白脱リン酸化酵素阻害剤ト-トマイシンの全合成において、問題として残っていたセグメントのエステル化反応を再検討した。この結果、ジオール前駆体を用いることによって、飛躍的にエステル化反応の収率向上を達成し、段階数の短縮に成功した。この合成法を用いることによって阻害作用解明を目的としたケミカルプローブ調製が可能となった。 2)阻害作用の立体化学を明らかにする目的で、ト-トマイシンとオカダ酸の両者の構造を併せ持つハイブリッド分子の創製を試みた。ト-トマイシンのセグメントBとオカダ酸のセグメントCを連結して、先に開発した効率的エステル化反応を応用してハイフリッド分子の合成に成功した。ハイブリッド分子はオカダ酸のPP2A認識部位を持つが、阻害実験より、ハイブリッド分子はPP1よリPP2Aを強く阻害した。これによって阻害剤の酵素認識部位を改変することによって、各々の蛋白脱リン酸化酵素に特異的な阻害剤の分子設計が可能性となった。 3)ヌクレオシド系抗生物質スピカマイシンの合成を目的として、転位反応を用いた効率的アミノ糖合成法確立を目指した。アリルシアナ-トの転位反応を用いた効率的窒素官能基導入法を開発して、Vibrio cholerae 569bのリポ多糖を構成するアミノ糖ペロサミンと抗腫瘍性抗生物質ビセニスタチンに含まれる構成糖ビセニサミンの合成に成功した。さらに開発した手法を発展させて、スピカマイシンのアミノヘプトース部分のC1〜C4部位の合成に成功した。
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