文部省科学研究費の援助をいただいたこの2年間に、それを大いに活用して、沖縄県の西表島、高知県、伊豆諸島等の採集旅行を試み、共生機構解明のために有効な実験材料だと、申請請者らが位置づけているLecanora(チャシブゴケ)属やGraphis(モジゴケ)属などのサンプルを多く採集した。これらの地衣菌を高浸透圧培地で培養し、新規化合物を生産する株のスクーリニングに取り組んだ。大変ユニークな構造が多く、地衣菌の大量培養や成分の精製・構造決定中のものも多い。この2年間に構造を決定したものは、以下の通りである。Lecanora nipponicaの地衣菌からと、西表島産のGraphis sp.から、新規の物質であるナフトキノン誘導体の別の色素がそれぞれ検出された。また、Sterecaulon japonica(ヤマトキゴケ)からジベンゾフラン系の新規化合物、Pyrenulajaponica(サネゴケ)からは新規のgraphislactoneを単離・構造決定したとともに、腐生菌Alternaria spp.が生産するマイコトキシンalternariolと同じ成分が得られた。興味ある地衣菌の成分の各々について、構造決定作業が追いつかないほど多く得られている。 上記の様な多くの地衣類を収集し、単離培養・二次代謝産物の構造決定に取り組む研究の過程で、地衣類の進化及び共生に関する仮説をたてるに至った。この2年間採集した地衣類の中で、とりわけ南日本産のサンプルから得られた単離菌が生産する二次代謝物は、1) 日本産のみならずアルゼンチンなど世界各地のサンプル由来の培養物からも得られる普遍的なものであること、2) 継代培養しても生産性が失われないこと、3) 短いポリケチド鎖でできたマイコトキシン様の化合物が多いこと、を見出した。
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