研究概要 |
浦島らは、これまでに各種の哺乳動物種の乳汁に存在するオリゴ糖の解析をすすめ、有袋類、単孔類、およびクマの乳において、通常乳汁中で糖質の90%以上を占めるラクトースが少量で、他のオリゴ糖の方が存在量の多いことを見出した。これらの種は共通して超未熟仔の乳仔を出産することから、ラクトース以外のオリゴ糖は未熟な乳仔の体形成や成長に関与する可能性が示唆された。 平成9年度は真獣類、食肉目アライグマ科のハナグマの乳に存在するオリゴ糖の解析をすすめ、3糖2種、4糖1種および5糖2種の化学構造を解析した。このうち2種の3糖の合計量は、ラクトースと同程度であった。高級オリゴ糖の化学構造はクマミルクオリゴ糖と似ているが、GlcNAc残基がフコシル化されていない点が異なる。クマ科とアライグマ科はいずれも雑食性で、哺乳動物の進化的位置において近いことが近年の分類研究から明らかになりつつあるが、真獣類で乳汁における糖質のラクトースとオリゴ糖の相対比のこのようなパターンが、食肉目に特徴的にみられることは食性との関係も示唆される。 一方、平成9年度には、ウシ,ヒツジ,ウマ,シカの乳汁において分娩前から常乳期に至るまでのシアリルオリゴ糖の変動パターンの解析を行った。ウシでは分娩直後の乳では3'-N-アセチルノイラミニルラクトースが、それは3日目以降急激に減少し、7日目以降の乳では他のオリゴ糖と同程度の量にまで低下することが示された。また、乳中におけるシアル酸含量はいずれの種の乳でも、分娩後3日目以降急激な低下が認められた。このようにシアリルオリゴ糖は泌乳時期の異なる乳で均一ではなく、泌乳時期に応じて顕著な変動を示す。これは各種のシアリルオリゴ糖の生理的役割が、乳仔の成長に応じるような働きをしていることを示唆するものである。同時に、シアル酸は免疫系の確立していない新生仔の段階で、とくに生理的意義を担っていることを示している。
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