報告者らは、ハナグマ、ツキノワグマ、イヌ、フサオマキザル乳のオリゴ糖、ならびにウシ、ヒツジの初乳のシアリルオリゴ糖の構造研究を行った。その中で、ハナグマ、ツキノワグマの乳においてはラクト-スよりもオリゴ糖の方が多いことを見出した。とくにツキノワグマ乳ではラクト-スは痕跡量しか存在せず、5糖や3糖が優勢糖質であった。真獣類食肉目の属するこれらの種は新生仔を未熟な状態で出産する哺乳動物種であることから、ラクト-ス以外のミルクオリゴ糖には、未熟な新生仔の成長や体形成に対して役割をもっている可能性が示唆された。また、未熟な新生仔を産む哺乳動物種であるタマ-ワラビ-(有袋類)の乳から分離したシアリルオリゴ糖を、線維芽細胞の培養系に入れて培養したところ、細胞増殖促進効果が認められた。この結果も、ミルクオリゴ糖に乳仔の体形成に役割のある可能性を示唆している。また、イヌ乳に硫酸基をもつオリゴ糖が認められた。これまで硫酸基をもつミルクオリゴ糖が認められている種は、ラット、ヒトそれに報告者によるイヌであり、これらはいずれも新生仔期に目の開いていない種である。このことから、硫酸基をもつミルクオリゴ糖には、乳仔への硫酸基の運搬を通じて網膜の形成に働きのある可能性が示唆された。一方、ウシ、ヒツジのシアリルラクト-スには、シアル酸の1位カルボキシル基と他の水酸基との間でラクトン環を形成した誘導体が検出された。これにはインフルエンザウィルスが乳仔腸管へ付着するのを阻止する感染防御的な働きのある可能性が示唆された。このように本研究を通じてミルクオリゴ糖には乳仔の体形成や、ウィルスなどに対する感染防御的な働きのあることが示唆された。
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