昨年度までの研究において、骨格筋タンパク質の分解が摂食後数時間で顕著に抑制され、この抑制に食餌タンパク質がシグナルとなっていること、さらに分解にはリソソーム系とカルパインが関与することを見出した。本年度は食餌タンパク質の何が重要か、さらに合成のシグナルとの関連を検討した。Sprague-Dawley系雄ラットを1日6時間だけ飼料を摂取するように慣らした後に、20%カゼイン食、必須アミノ酸食、ロイシン食および無タンパク質食を1時間摂取させた。摂食前および摂食3時間後にラットを屠殺して後肢筋を採取した。後肢筋はタンパク質分解酵素阻害剤を含む生理的な緩衝液中で一定時間インキュベーションし、筋原線維タンパク質の分解の指標となる3-メチルヒスチジン放出速度から分解速度を測定した。その結果、無タンパク質食以外では分解速度の有意な抑制が認められた。このとき、タンパク質合成の翻訳にかかわるシグナルのひとつであるp70S6Kの活性は摂食直後から増加し、分解の抑制と若干のずれが生じた。そこで、摂食量に相当するロイシンをラットに強制投与したところ、摂食30分後から分解の抑制とp70S6Kの活性化が認められた。このとき、血中ロイシン濃度は投与直後から顕著に増加した。以上から、分解の抑制には少なくともロイシンが必要であり、その血中濃度がある程度増加すれば抑制されるが、合成に対してはより低濃度で効果があることが明らかになった。
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