ビタミンC、すなわちL-アスコルビン酸(L-Ascorbic Acid、以下AsAと省略)は人間に必須の微量栄養素であり、コラーゲンの生合成、芳香族アミノ酸代謝、脂質代謝、免疫能・細胞増殖作用の賦活化等々の重要な生理作用に関与していることは広く知られている。しかし、AsA分子の有する生理効果の詳細については、生理効果の発現過程におけるO^-_2の寄与の有無も含めてまだ不明の点が多い。一方、AsAは非常に還元性が強く、抗酸化剤として広く食品の加工・貯蔵時に添加・使用されている。近年、AsAの生体内における抗酸化ビタミンとしての生理効果が重視されるにつれて、その生体内抗酸化機能と生理効果との関連をより明確にするための試みがなされるようになってきたが、この両者の正確な相互関係については現在なお明確にされていない。AsAの生体内における抗酸化機能と、生理効果の発現過程との関連を明らかにするため、その第一段階として、両者の関係について実験化学的および計算化学的手法による詳細な検討を試みた。まず、AsA及びその関連物質につき半経験的分子軌道法(主に MOPAC VER6.0)により、最適化された立体化学的構造(平衡構造)、各原子上の電子密度、双極子モーメント、生成熱、各分子軌道の形状やエネルギー等々を求めた。特に、AsAと酸素分子(3重項および1重項)との反応過程、すなわち自動酸化過程について詳細な計算化学的解析を試みた。また、実験化学的にAsAの自動酸化反応生成物の確認を行った。すなわち、反応初期過程で生成する微量の生成物をTMS誘導体としてGC-MSにより分離・同定した結果、等モルのスレオン酸、シュウ酸の生成を明らかにした。また、その際、O^-_2の生成することもSOD等を用いることにより実験化学的に確認した。これらの結果を総合し、従来未知であったAsAのC2酸素付加物を経由する新しい自働酸化反応機構を提示した。
|