分泌刺激による調節性エキソサイトーシス(開口分泌)に際して細胞内では急速な膜融合が生じるが、これにはリン脂質水解などの一時的な膜の不安定化が必要と考えられる。我々は膜融合にホスホリパーゼ等による酵素反応が関与していると仮定して、膵臓からの消化酵素分泌をモデルとして、ホスホリパーゼ阻害剤の分泌に対する影響および対応する生体膜脂質組成変化を調べた。 その結果つぎの諸点が明らかになった。消化酵素分泌がホスフォリパーゼA_2(PLA_2)阻害剤により阻害された。また分泌刺激に伴い膜のリゾホスファチジルエタノールアミンが増加した。すなわち、消化酵素分泌にPLA_2による酵素反応が関与することが明らかになった。次に、PLA_2阻害因子リポコルチンに類似した新規タンパク質ZAP36を膵臓チモーゲン顆粒膜上に見出し、その分子クローニングを行った。ZAP36はアネキシンファミリーの新規メンバーであることが分かった。ZAP36の生体内分布をノーザンブロット解析で調べたところ、主に分泌細胞を有する器官に発現していた。ZAP36はin vitroでATPase活性を示した。ATPase阻害剤に対する挙動から従来のATPaseとは違ったタイプのATPaseであることが示唆された。ATPに対するKm値とVmax値から、ZAP36はATPを結合した状態で存在すること、分泌刺激時にZAP36のATPase活性を増加させる因子が存在することが示唆された。さらに、ZAP36はin vitroでチモーゲン顆粒膜上のPLA_2活性を阻害することが明らかになった。 以上の結果から、ZAP36の膜融合における機能について、ATP結合型ZAP36がPLA_2活性を阻害し、分泌刺激によりZAP36のATP加水分解活性が亢進し、PLA_2を活性化することにより膜融合を引き起こすという仮説を提唱した。
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