我国の死因に占める死亡者数当り大腸癌の割合は近年ますます増加する傾向にあるが、主な要因には食生活における欧米化(低繊維高脂肪食)と高齢化が指摘され、腸腔中の胆汁酸濃度への関心が高い。回腸末端に局在するNa^+依存性胆汁酸トランスポーター介在による再吸収を免れ腸内細菌の作用を受けて変換した二次胆汁酸は、強力な大腸発癌のプロモーターとして作用する。前年度において、アゾキシメタン処理したラットを0.2%デオキシコール酸を含むカゼイン食とHMF食で飼育したとき、カゼイン食で変異陰窩(アベラントクリプト)数が少なくHMF食で高いにもかかわらず腫瘍はカゼイン食で頻発しHMF食で抑えられることを確かめた。 HMF未消化産物中の“大豆レジスタントプロテイン"が糞中胆汁酸排泄を著しく高めることから腸腔内でレジスタントプロテインよって捕捉された二次胆汁酸はプロモーター作用を発揮できない結合様式にあると考えられた。今回、空回腸を部分切除したラットを作成し、0.2%デオキシコール酸を含むカゼイン食で長期間飼育して大腸腫瘍発生に及ぼす胆汁酸トランスポーター欠損の影響を調べた。その結果、回腸切除群での大腸腫瘍発生数は対照の空腸切除群に比べて有意に高く、また大腸近位にも多くの腫瘍発生がみられること(空腸切除群大腸近位は皆無)を見い出した。このことは何らかの原因で胆汁酸トランスポーターの発現または機能低下が起きた場合大腸発癌誘発が高まる危険を暗示するものであり、その危険を軽減するためには食生活における胆汁酸捕捉能を持つような食物成分の日常的摂取が有効な手段になると推奨できる。なお当該腫瘍の遺伝子変異については、回腸切除群40個の腫瘍中の3個にK-ras変異が検出されたのみで、空腸切除群19個の腫瘍中にはK-rasにもP-53にも変異を認め得ず、遺伝子変異が先行して腫瘍が悪性化したのではなく異型度の進行が遺伝子変異をもたらしたと推察される。
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