研究概要 |
大豆分離タンパク質を微生物由来のプロテアーゼで処理した後に残る不溶性の高分子画分(以下、HMF)には、約1/4の大豆レジスタントプロテインが含まれる。アゾキシメタン処理したラットにデオキシコール酸(以下、DCA)添加有無のHMF食とカゼイン食を投与し、4,8,12週目に大腸を取り出し前癌病変の指標とされる変異陰窩巣(aberrant crypt foci,以下ACF)を観察すると、ACFはカゼイン(-DCA)やHMF(±DCA)群に比べてカゼイン(+DCA)群で特に少なかった。しかし、この段階では何れの食餌群にも腫瘍を検出できなかった。飼育開始後39週目、カゼイン(+DCA)群10匹中6匹に18個の、HMF(+DCA)群9匹中3匹に3個の腫瘍が数えられ、坦腫瘍ラット当りの平均腫瘍数は3.0±0.4(n=6)に対し1.0±0.0(n=3)、腫瘍サイズは4.7±0.4mm(n=18)に対し2.0±0.1mm(n=3)と求められた。すなわち、HMF食は糞中胆汁酸排泄と大腸ACF出現を高めるが、逆に実験的大腸腫瘍発生には防御的に機能することが明らかとなった。肉眼的に数えられた腫瘍の大部分が病理組織検査によってアデノカルシノーマと診断されたことから、HMFには大腸発癌抑制効果があり、この効果はHMFと云うよりむしろ大豆レジスタントプロテインが消化管内で二次胆汁酸を捕捉して、その発癌プロモーター作用をマスクしたためと解釈される。 次いで、回腸末端切除によりNa-依存性胆汁酸トランスポーターを人為的に欠損させたラットを用いて、二次胆汁酸の発癌プロモーター作用の危険性を調べた。その結果、アゾキシメタン処理カゼイン(±DCA)投与後39週目の空回腸部分切除2群(n=12)のラットを坦腫瘍数別にランク付けMann-Whitney U-testを行なうと両群間に有意な差があり、回腸切除群40腫瘍中の3個にK-rasが存在、また大腸部位毎腫瘍分布に対してChi-square testを実施して胆汁酸トランスポーター除去によって大腸近位にも腫瘍が多発することを実証した。
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