低酸素は、高地居住、潜水、肺あるいは心疾患や悪性貧血などの呼吸器や循環器系の障害により、生体内の酸素供給の低下が引き金となって起きる。このようなとき、生体は造血因子であるエリスロポエチンを腎臓から分泌して、赤血球分化を促進、また末梢血管新生因子(VEGF)により、血管新生を促進させることが知られている。 申請者らは、脳毛細血管内皮細胞の初代培養系を確立し、エリスロポエチンが、赤血球分化因子としてだけでなく、VEGFと同様、毛細血管新生促進因子としても機能することを初めて見出した。さらに、この系を用いて遊離型のエリスロポエチン受容体の存在を明らかにした。 さらに、マウス脳毛細血管内皮細胞株(MBEC4)を用いて低酸素(2%O_2)で培養し、糖分解系の酵素(グリセロアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素、GAPDH)および血管弛緩因子(EDRF)であるNOの合成酵素であるNOSの低酸素による誘導機構について検討を加えた。これら両タンパク質はMBEC4を低酸素に暴露すると強く誘導されることを見出したが、これらのタンパク質の遺伝子配列をみるとHypoxia-inducible factor-1(HIF1)の結合部位がなく、どのような機構で誘導されるか不明である。そこでこの機構を検討した結果、低酸素により、細胞内Ca^<2+>濃度が上昇し、このCa^<2+>がp53MAPキナーゼ(JNKとして知られる)を活性化し、ストレス応答に関与すると考えられるPKCを介するシグナル伝達により、JNK/SAPKファミリーの活性化により、C-Junのリン酸化を通してAP1(転写活性化因子)の上昇により、誘導がおこることを明らかにした。尚、MBEC4中のNOSおよびGAPDH遺伝子上流にAP1結合領域の存在も明らかにした。
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