陸上生物は21%の酸素中で多くは呼吸して存在している。しかし21%の酸素濃度では常い活性酸素の著量を生体内に生成し、時にはそれが重要な機能を果たしてはいるが、多くの場合有害な過酸化物質を生成し、老化促進やガンを初めとする多くの疾病の原因、また寿命の決定因子として作用する可能性があり、申請者は低酸素条件が呼吸生物の存在に良好な結果を与える可能性が高いと考え研究を進めた。 初年度の研究として、10.5%と7.6%の低酸素化でラットを生育させ、ラットの胃酸分泌制御の原因が、ガストリンが直接関与せず、アドレナリンとノルアドレナリンの分泌上昇が胃酸分泌制御、胃内pH上昇の引き金となっていることを証明できた。さらに、低酸素は、高地居住、潜水、肺あるいは心疾患や悪性貧血などの呼吸器や循環器系の障害により、生体内の酸素供給の低下が引き金となって起きる。このようなとき、生体は造血因子であるエリスロポエチンを腎臓から分泌して、赤血球分化を促進、また末梢血管新生因子(VEGF)により、血管新生を促進させることが知られている。申請者らは、脳毛細血管内皮細胞の初代培養系を確立し、エリスロポエチンが、赤血球分化因子としてだけではなく、VEGFと同様、毛細血管新生促進因子としても機能することを初めて見出した。さらに、この系を用いて遊離型のエリスロポエチン受容体の存在を明らかにした。 さらに、マウス脳毛細血管内皮細胞(MBEC4)を用いて低酸素(2%O_2)で培養し、糖分解系の酵素(グリセロアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素、GAPDH)および血管弛緩因子(EDRF)であるNOの合成酵素であるNOSの低酸素による誘導機構について検討を加えた。これら両タンパク質はMBEC4を低酸素に曝露すると強く誘導されることを見出したが、これらのタンパク質の遺伝子配列をみるとHypoxia-inducible factor-1(HIFI)の結合部位がなく、どのような機構で誘導されるか不明である。そこで、この機構を検討した結果、低酸素により、細胞内Ca^<2+>濃度が上昇し、このCa^<2+>がp53MAPキナーゼ(JNKとして知られる)を活性化し、ストレス応答に関与すると考えられるPKCを介するシグナル伝達により、JNK/SAPKファミリーの活性化により、C-Junのリン酸化を通して、AP1(転写活性因子)の上昇により、誘導がおこることを明らかにした。尚、MBEC4中のNOSおよびGAPDH遺伝子上流にAP1結合領域の存在も確認あれ、このときiNOSの上昇に伴い、生成するNOにより、cGMP生成が促進された。このcGMPの上昇により、細胞内情報伝達機構の活性化が血管弛緩を引き起こし、低酸素下で血行を促進するものと結論付けられた。 ビタミンB_2は血球分化因子として知られており、低酸素条件下では赤血球が急激に増加する。このことからビタミンB_2は低酸素下で直接必要とされる。そこでB_2欠乏ラットを作成して低酸素下に飼育したところ、赤血球分化に著しい抑制が認められ、赤血球容量の増大が判明した。この現象は低酸素下でビタミンの添加により、2週間後には正常な容量に戻った。この機構については現在も続行して検討中である。
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