本年度は最近欧米諸国で小麦アレルギー患者に対する低アレルゲン食品として注目され始めた小麦の古種であるスペルト粉(Triticumspelta)の免疫学的・食品学的解析を行い、その新規食品素材としての有用性に検討を加える事を目的とした。 食品成分表に準じた一般成分分析、脂肪酸分析、アミノ酸分析、蛋白質の電気泳動的解析、ポリクローナル抗体を用いたウエスタン解析では、通常の小麦粉(ヘルメス粉)とスペルト粉の相違を明らかにすることはできなかった。そこで、ヘルメス粉抽出液を抗原として常法に従ってマウスモノクローナル抗体を作製した。ヘルメス粉抽出液を固相とした2回のELISAで陽性であった50個の細胞融合後の培養上清は、スペルト粉抽出液にも同様に反応した。2回のクローニングを経て得られたモノクローナル抗体7つを用いてヘルメス粉蛋白質に対するウエスタン解析を行ったところ、高分子領域(80〜100kDa)の複数の蛋白質と反応するもの、低分子領域(30〜50kDa)の複数の蛋白質と反応するもの、どちらにも反応するものに分かれた。これらの反応性はスペルト粉蛋白質に対しても同様であった。モノクローナル抗体であるにも拘わらず複数の蛋白質と反応した事から、小麦粉中の多くの蛋白質がエピトープを共有する群として存在していることが明らかとなった。また、小麦に対するRASTスコアが3以上であるヒト血清を用いたウエスタン解析においても、ヘルメス粉とスペルト粉に顕著な差異は認められず、30〜40kDaにIgEに対する抗原性の高いバンドが検出された。これまでの分析結果からは、スペルト粉が免疫学的・食品学的に新規食品素材として有用であるという証拠は見いだされていない。
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