本研究は、樹木と人間との関わりを、主に巨樹や名木の伝説を通してみてみようとしたものである。研究の場所として、比較検討のため全国を対象とした。研究の結果、得られた知見はつぎの通りである。 日本の伝説や昔話の世界を通して、樹木と人間とのかかわりについて検討を行った。伝説や昔話に現れた樹木は、人間の居住空間及びその周辺に多く、民間信仰や日常の暮らしに深く結びついていることが明らかとなった。伝説や昔話に現れた樹木は、いずれもその土地の植生を反映したものであり、そこに独自の文化あるいは信仰なども垣間見ることができた。樹木と人間の関わりにおいては、実用性と霊性の二つに大きく分けられ、その中において多様な役割を持って人々の暮らしに機能してきたことが明らかとなった。特に昔話の世界においては、現れた樹種の数も豊富で、その利用も多様であり、森林資源に暮らしの多くを依存してきた人々の生活が反映していたといえるだろう。森林や樹木に対する畏れ、樹木信仰もまた、伝説や昔話の世界に顕著に現れていた。 また、日本における巨樹・名木の現状について把握した。巨樹・名木の多くは、社寺や里山付近に分布しており、環境的にも恵まれた条件下にあることが明らかとなった。それに加えて故事伝承、独特の呼称、信仰対象、保護指定など、社会的な要因に大きく影響を受けており、なかでも地域の人々とのさまざまな関わりの中で大切にされてきたものといえるだろう。
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