この研究は、樹木の低温耐性、高温耐性、耐陰性に焦点をしぼり、低温・高温・弱光のそれぞれの環境ストレス因子に対する樹木の耐性機構を明らかにするとともに、耐性能力の評価法を確立することを目的として行っている。 この目的達成のため、低温・高温耐性機構の解析には、樹木種の生態学的な生育分布地の違いに注目し、北方系、南方系、温帯性の51種の樹種について、それぞれの葉から抽出した膜脂質の脂肪酸組成、アスコルビン酸やα-トコフェロールなどの葉内アンチオキシダント含量とその季節変化を測定した。また光合成や光呼吸活性と温度ストレスの関係についても解析した。アスコルビン酸は、針葉樹、特に北方系の樹種であるドイツトウヒやヒメコマツで含有量が高く、またその量は、冬に著しく増加し、夏減少する季節変化をすることを見出した。しかし、南方系の樹種では、含有量は低く、季節変化も小さかった。これらの結果から、冬季におけるアンチオキシダント量の著しい増加は、低温光阻害から樹木を守るための低温ストレス防御に重要であること、葉内アンチオキシダント量が樹木の耐寒性評価の指標となることが示唆された。 耐陰性の解析には、陰樹であるカクレミノ、陽樹であるクロマツ、それらの中間型であるマテバシイの実生苗を材料として被陰処理を行い、それぞれの樹種の生育限界照度を明らかにするとともに、被陰処理葉の光合成活性や電子プールサイズの測定を行った。実生苗を相対照度0.1〜20%のもとで被陰処理し、それぞれの被陰処理木の葉の電子プールサイズ、最大電子伝達速度、光合成活性などを測定した。その結果、電子プールサイズがP700当たり7-9電子以下になると、陰樹・陽樹ともに樹木は生育できないこと、また、生育限界電子プールサィズとなる光強度は、樹種によって異なることを見出した。これらの結果から、電子プールサイズの測定は、樹木の耐陰性能力の評価に有効な方法であることが示された。
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