この基盤研究(C)は、樹木の環境ストレス耐性能力に関係していると考えられるアンチオキシダントの葉内含量と樹木の温度ストレス耐性との関係、植物細胞の膜脂質を構成している飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の相対含量と樹木の耐寒性および耐熱性との関係、光呼吸活性の種間差などを測定し、ストレスに強い樹木の特性を明らかにすることを目的に行った。 51種の樹木(落葉樹17種、常緑広葉樹23種、針葉樹11種)におけるアンチオキシダント含量とその季節変化、脂肪酸組成の樹木種間差および夏の葉と冬の葉における不飽和脂肪酸の相対含量(不飽和度)の変化を測定し、51種の樹木の生態学的な生育分布域と不飽和度の関係について解析した。アスコルビン酸は、針葉樹、特に北方系の樹種であるドイツトウヒやヒメコマツで含有量が高く、またα-トコフェロールとアスコルビン酸量は、冬に著しく増加し、夏に減少する季節変化をすることが明らかになった。これらの結果から、冬季におけるアンチオキシダント量の著しい増加は、低温光阻害から樹木を守るためのストレス防御に重要であることが示唆された。一方、夏と冬における脂肪酸の不飽和度の変化は、ドイツトウヒなどの北方系の樹種よりも、ショウナンボクやヤブニッケイなどの暖地性樹種において大きな傾向にあり、脂肪酸不飽和度の季節変化は、樹木の耐寒性ではなく、夏の高温に対する適応能力に関係していることが示唆された。すなわち、アンチオキシダントは耐寒性に関係しており、脂肪酸組成の変化は耐熱性に重要な役割を果たしていることが明らかになった。また、アンチオキシダント量や脂肪酸不飽和度の季節変化の大きさと環境温度に対する樹木の適応能力との間には相関関係があることを見い出した。
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