植物の塩吸収を抑制するには蒸散を抑制すべきという意見と逆に蒸散を促進すべきという相反する見解があるが、本研究は、塩吸収量と蒸散速度との関係ならびに塩吸収の機構を調べた。まず、耐塩性が異なる2樹種(感受性のヒラドツツジと耐塩性のシラカシ)にNaCl濃度150mMの水耕による塩処理を行った。この結果、Na吸収量と蒸散量とは正の相関関係があること、ヒラドツツジで葉量を減らすと苗木のNa+吸収量は減るが、葉のNa含有率が高まり被害発生が早まることがわかった。 さらに、移植による根の痛みが塩吸収に影響するかを調べるために、シラカシと感受性のキンモクセイの水耕苗を用い、根の先端5mmを切断処理した。根の切断直後とその3日目及び対照苗をNaCl濃度150mで水耕し、Na吸収と蒸散速度との関係を調べた。その結果、キンモクセイでは被害率が高く、塩処理はいずれも蒸散を低下させたが、根の切断処理は蒸散速度にもNa吸収量にも影響しなかった。シラカシでは、切断直後の塩処理苗の塩吸収量は有意に大きく被害率も高かった。切断3日後の塩処理苗では蒸散は大きいが、塩吸収量は根を切断しなかった苗と差がなく、被害率も同様に低かった。 また、蛍光物質ピラニンを塩処理と同様に行い、根の下表皮や内皮にあるカスパリー線が欠如した部分を通過するバイパスフロー量を推定し、このバイパスフローを通る多量の塩の受動的な吸収があり、このために蒸散が塩吸収を促進することを確認した。すなわち、蒸散は塩吸収を増大させた。さらに、7樹種の苗をセルローズの染色剤TinopalCBS液で水耕し、蛍光顕微鏡写真により根におけるCBSの分布とカスパリー線との関係を調べた。キンモクセイは下表皮にカスパリー線を欠き、このためにCBSは皮層に多く吸収されたが、中心柱への侵入はみられなかった。この点は今後重点的に追跡する必要があると判断された。
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