沖縄に産するマングローブ構成樹種の中でオヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギと、マヤプシキを研究材料として(ただしDNA解析にはマヤプシキの代わりにヒルギモドキ)、当初の研究実施計画に基づき2年間の研究が行われた。アイソザイム(同位酵素)を用いた解析には、ポリアクリルアミド垂直平板電気泳動法が用いられ、電気泳動後23酵素種について染色が試みられた。その結果、ヤエヤマヒルギでは酸性フォスファターゼなど5酵素種で明瞭なバンドパターンが得られ、酵素多型がみられたパーオキシダーゼの推定遺伝子座を用いて集団間の遺伝的な距離が算出された。オヒルギとメヒルギについても同様に表現型から遺伝子型が求めら、遺伝的解析が行われた。マヤプシキは西表島、石垣島、小浜島の3つの島のみに見られるが、石垣島では2個体しか確認されないことから、石垣島では危機的状態にある。このマヤプシキについては、3酵素種の遺伝子座を用いて遺伝的距離等が求められたが、石垣島にはわずかに2個体しか残っていないことから、それら2個体については統計的処理による集団遺伝学的解析を行うことはできなかった。ヤエヤマヒルギについてはDNA抽出効率の良かったIce Cold Buffer法を用いてDNAが抽出され、開発されたマイクロサテライトを用いて遺伝的解析が行われたが、集団内の遺伝的変異が小さく、今回開発したマイクロサテライトでは遺伝的な変異量を統計的に処理できるまで精度を挙げることができなかった。アイソザイムの解析結果とDNAの解析結果から、世界のマングローブ分布の北限近くに位置する沖縄のマングローブ4樹種では、集団間の遺伝的変異が比較的小さく、遺伝的距離も大きくはなかった。したがって、今後更に、遺伝的な変異解析と平行して、種子の散布様式や、交配様式も合わせた研究の必要性も痛感された。
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