白色腐朽菌Phanerochaete chrysosporiumによるセルロース生分解過程でのセルラーゼ系およびセロビオース脱水素酵素(CDH)との関わりを明らかにするために、平成9年度の実績に基づき以下の実験を行った。 P.chrysosporiumのCDHは生成物阻害の解除機構を通して本菌由来のセルラーゼであるセロビオヒドロラーゼI(CBHI)に対して活性化をする働きを有するが、その一方においてCDHはTrichoderma viride由来のCBHIの活性化に対しては何らポジティブな効果を示さないことを明らかにした。このことから、P.chrysosporiumのセルロース分解系においてはCDHとCBHIの間には生化学的に特別な関係にあることが強く示唆された。さらに、CDHとCBHIのタンパク間相互作用を検討するために、CDHを固定化したゲルの調製を試みたが、実験目的に対して満足のできるアフィニティーゲルを得るには至らなかった。 P.chrysosporiumによるセルロース分解系におけるCDHの酵素機能を明らかにする目的で、CDHの活性中心に含まれる2つの補欠分子族、すなわちCDH分子内のFADおよびヘムの酸化還元電位を測定し、そのpH依存性にpH3-9間ついて明らかにした。その結果、CDH内での電子伝達には両者における酸化還元電位ではなく、pHに依存した酵素分子のコンフォメーションの変化に基づく両者の位置関係が重要であることが示唆された。 セルロース分解系におけるCDH生産を遺伝子の発現レベルで調べるためにRT-PCR法を適用することを試みた。セルロース分解系のP.chrysosporiumからCDH遺伝子をcDNAとしてクローニングし、そこで得られたCDH遺伝子配列の情報をもとにプライマーを作成した。このプラーマーを利用したRT-PCRによるmRNA定量法を確立するために、mRNAの抽出条件ならびに遺伝子の複製・増幅条件について検討した。
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