研究概要 |
本年度においては、熱帯樹木における年輪年代学の基礎的知見を得るために、植栽年数の判明している広葉樹造林木を用い、樹幹下部の円盤を用いて、成長輪構造を解析することを行った。そのねらいは、熱帯樹木に現れる弱い成長輪構造が年輪に相当するのかどうか、を考察するために、植栽年数の判明している試料木という点を利用し、検討しようとするものである。用いた試料木は、マレーシア(半島部)に生育していた、フタバガキ科のShorea acuminata, Shorea leprosula, Dryobalanops aromatica,また代表的造林木のTectona grandis, Hevea brasiliensis, Acaciamangiumである。各試料木から得られた円盤を電動式サンダーで研磨後、表面の情報をイメージスキャナーでコンピューターに取り込んだ。これらについて、円周方向の連続性に焦点を当て、成長輪構造を捉えた。また放射方向の木片から、光学顕微鏡の切片を取り、成長輪構造の細胞の特徴について調べた。その結男D.aromaticaでかなり成長輪構造が弱かった事を除けば、すべての樹種で環状の成長輪構造が観察された。ただしT.grandisに見られるように、不連続成長輪や偽成長輪も現れ複雑であった。成長輪界の顕微鏡観察の結果、成長輪界の晩材側では道管径が小さい、木繊維が厚壁化・扁平化する、放射柔細胞の長さが短くなる、等の特徴が現れた。ただし樹種によってはこれらの一部の特徴が出現するのみであった。また晩材側と早材側との差があまり顕著でない場合もあった。T.grandisやS.acuminataでは強い成長輪構造を示したものが、近似的に年輪に対応すると考察された。一方同一試料木の中でも、円盤の中央から外層部へと、成長輪構造が弱くなる場合、また樹幹の上部では下部に比べて成長輪構造が弱くなる場合もあった。今後さらに実験をすすめ、成長輪と年輪との関係を考察して行きたい。
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