研究概要 |
これまで選択的白色腐朽菌 Ceriporiopsis subvermisporaは最も優れたバイオパルピング菌として位置づけられてきたにもかかわらず、そのリグニンの分解機構は未解明であり、木材細胞壁内でのリグニン分解に関与する低分子物質を単離・同定してそのリグニン分解機構を実証した例はない。本研究では、Ceriporiopsisが木材腐朽の際、菌体外に多種類の遊離の脂肪酸を分泌し、その中の主要な物質として9,12-オクタデカジエン酸を生産していることをGC-MSと2D-NMRにより示した。この不飽和脂肪酸は、植菌していないコントロールでは検出されず、植菌した試験区においてのみ検出された。検出された9,12-オクタデカジエン酸の量と培養期間に比例関係はなく、抽出された脂肪酸は過酸化を受けた後に残存している菌体外の脂質に由来することが強く示唆された。また、GC-MSにより不飽和脂肪酸が過酸化を受けた際に生じるα-カルボニル構造をもつ分解産物も検出した。さらに、Ceriporiopsisは木材腐朽に伴いリピッドハイドロパーオキサイドを蓄積することをDPPPアッセイにより示した。また、リピッドハイドロパーオキサイドの増加とMnPの酵素活性に相関は認められず、過酸化に低分子金属錯体や活性酸素種などのMnP以外の過酸化開始剤の関与が必要なことを示した。Ceriporiopsisが生産した不飽和脂肪酸は銅エチレンジアミン錯体、鉄アスコルビン酸、リポキシゲナーゼによる過酸化を受けてリピッドハイドロパーオキサイドを極めて速やかに生成した。リポキシゲナーゼによる過酸化を受けて発生したラジカル種はESRにより分析し、ペンチルラジカルの発生を確認した。また、リピッドハイドロパーオキサイドモデルと銅錯体反応で生成するラジカル種も検討した。
|