多様な環境を提供し、多様な生物種が生息する沿岸域の生物種の分布と消長およびその環境を経時的・経年的に調査し、遺伝資源としての存在様式を把握することは生物の多様性保全や地球環境の保全にとって重要な情報を与えると共に持続的沿岸生物生産にとっても重要な課題である。本研究は寒暖流境界領域であり、多様な生物種が出現する牡鹿半島を調査フィールドとして、生物種・集団(遺伝資源)の動態を捉え、環境変動の指標動物を探査することを目的とした。 調査地点は宮城県牡鹿半島北側の女川町塚浜、牡鹿半島先端部牡鹿町金華山船着き場北側と南側、牡鹿半島南側の石巻市佐須浜の3地域4地点である。 平成9年度から3年間の牡鹿半島沿岸域の定点における生物種(集団)の分布を調べた結果、牡鹿半島3地域4地点における生物分布の季節変化および年変化には顕著な変動が認められず、それぞれの場において多くの種が安定した分布を示すものと考えられた。しかし、地域間の比較を行ったところ、牡鹿半島南北では、巻き貝類のクボガイとコシダカガンガラの分布に差が認められた。なお、岩礁域の生物分布調査地域の環境調査をした結果、牡鹿半島南側では5月の水温が高く、塩分濃度は他に比べて低いことがわかった。このことから、環境変動の指標は牡鹿半島南北の地点における動物種の構成の変化をインデックスとすればよいと考えられた。 形態的に類似したヒザラガイ類や巻き貝類ではアイソザイム遺伝子を標識として比較した結果、形態が酷似しているヒザラガイ類では明確に遺伝的差異を示し、色彩が多様なチヂミボラは同じ遺伝子を保有していることがわかり、遺伝資源の区分(種の同定)をアイソザイム遺伝子を用いて明確に判定できることがわかった。また、これまで調べられていないイトマキヒトデとキヒトデのアイソザイム分析を行った結果、顕著に高い遺伝子変異性が示された。 これら3年間の成果をもとに、牡鹿半島沿岸岩礁域の潮間帯に生息する種の分類と分布についてまとめ、実習書として作製する準備ができた(平成13年度には発行する予定)。
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