造礁サンゴが大規模に死滅した場所にホンダワラ類などの大型褐藻類が繁茂した場合、そこの魚類群集がどのように変化するかを明らかにするため、1999年10月に沖縄県西表島の網取湾で野外調査を行った。網取湾のサンゴは1981年頃にオニヒトデの食害を受け、ほぼ完全に死滅したが、現在このような死滅サンゴ域が存在する一方で、サンゴの回復がみられる場所や大型褐藻類が繁茂しはじめた場所(以後、ガラモ場と呼ぶ)が一部存在する。そこで、死滅サンゴ域とガラモ場(大型褐藻類の被度は約36%で、高さは約70cm)にそれぞれ1m×20mのトランセクトを5本設置し、魚類の種数と個体数を計数した。 ガラモ場で観察した魚類の種数はトランセクト(20m^2)あたり16.8種で、死滅サンゴ域(13.0種)と有意な差はなかった。一方、個体数ではガラモ場(25.2個体)は死滅サンゴ域(18.6個体)より有意に多かった。ガラモ場で個体数が死滅サンゴ域より多かったのは、移動性が強い底生無脊椎動物食の成魚(特にベラ類)がガラモ場で多く観察されたためであった。 このように、死滅サンゴ域がガラモ場へ移行し、大型褐藻類の被度が約36%になると、魚類の個体数は増加することが判明した。しかし、ガラモ場の魚類の個体数は生存サンゴ域のものと比べると著しく少ないことがわかった。今後、ガラモ場がさらに発達した場合、魚類群集がどのような変化を示すのか調べる必要がある。
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