本研究の目的は魚類耳石の酸素同位体比やSr:Ca比などの微量元素特性から個体の生息環境の履歴を推定し、さらにその回遊履歴を解明することにある。平成9年度において耳石の局所領域における酸素同位体測定が二次イオン質量分析法(SIMS)で可能であることを明らかにした。平成10年度ではさらに精度の高いSIMS分析を行うための分析条件や試料作成方法の検討を行った。また耳石Sr:Ca比については、マイワシとアユを材料として、その環境との関係を明らかにして回遊履歴の推定を試みた。【酸素同位体測定】種子島海岸で採集されたシラスウナギの耳石を用いた。平成9年度の研究から耳石の測定表面の凹凸が測定精度に大きく影響することが指摘されたために、平成10年度は表面の平滑化のための研磨方法を検討した。その結果、従来の方法で中心面を研磨表出した後の琢磨方法を工夫することで縁辺部と中心部との間の高低差を3μm以下にすることが可能となった。現在さらに平滑化するための手法を検討中である。なお、シラスウナギの耳石の酸素同位体比(^<18>O/^<16>O)は中心部が周囲に比べて高い傾向がみられた。このことはウナギの産卵水温が発育初期の生息水温に比べて低い、すなわちウナギがより深い水深で産卵していることを示唆している。【耳石Sr:Ca比】マイワシについて飼育実験より水温や塩分と耳石Sr:Ca比との関係を調べたが、いずれも明瞭な関係は認められずマイワシについては耳石Sr:Ca比を回遊履歴に適用することが難しいことが明らかになった。アユについは茨城県久慈川に遡上するものを材料とし、100日齢程で河口域に移動し、150〜200日齢で淡水域に進入することが明らかになった。さらに海洋生活期においても回遊履歴の異なる複数の集団に分けられることが可能となり集団解析にも耳石Sr:Ca比が有効であることが明らかになった。
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