研究概要 |
長期的な視点から資源の接続的利用を考えるために,現存資源の将来的な再生産能力を評価する手法を考案した.加入乱獲抑制の資源管理の多くは,当面の産卵に必要な親魚を獲り残すことで、毎年の産卵を安定させようという考え方に基づくものである.産卵親魚の現存量確保を目的としたこれらの資源管理は,その時点での繁殖能力が低い末成魚や若齢魚の将来性を不当に軽視してしまう危険性がある。 数理生物学の分野では,Fisherの繁殖価(Reproductive Value)が個体の再生産能力の指標として幅広く用いられてきた.繁殖価とは,ある齢の個体が以後の将来に産む産卵数の期待数である.繁殖価の概念を資源全体に拡張したのが,産卵ポテンシャル(Spawning Potential,SP)である.産卵ポテンシャルSPは対象資源の再生産能力を資源が生涯に産む産卵数で評価する概念であり,年齢別個体数(資源評価値)と定常状態の繁殖価の積を合計することにより計算できる。SP=Σ^^<tmax>__<i=l>NiΣ^^<tmax>__<j=i>Wj・expl^1_1-(F+M)(j-i+Δt}(1)ここでNi:i歳魚の個体数,Wj:j歳魚の体重,F:漁獲係数,M:自然死亡係数,t_<max>:最高年齢,Δt:次の産卵までの時間(産卵期直前のSPを計算する場合はΔt=0となり,直後の場合はΔt=lとなる)である。一般的なSPRは漁獲開始年齢時のFisher繁殖価に対応する。 マサバの太平洋系群を例にシミュレーションを行い,産卵ポテンシャルのよる資源管理の有効性を検討した.マサバの体重あたり繁殖価は年齢とともに減少するので,バイオマスを産卵能力の指標とすることは妥当ではなく,産卵ポテンシャルを指標に管理を行うことの必要性が示唆された。産卵ポテンシャルの最小値を設定する闘値管理は,マサバのような寿命が長く加入変動が大きい資源に特に適している.さらに産卵ポテンシャルは,許容漁獲量(TAC)制をはじめとする資源管理の様々な領域に応用が可能である.
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