平成9年度から平成11年度にわたって遂行した本研究による成果の概要は以下の通りである。 (1)従来ヨーロッパウナギAnguilla anguillaのレプトセファルス幼生の網膜では桿体細胞のみがみられると報告されていたので、産卵場付近で採集されたニホンウナギAnguilla japonicaのレプトセファルス幼生人工ふ化仔魚(7日令)の網膜光受容細胞における外節やシナプス形成の微細構造学的解析を行い、他の魚種の場合と同様にウナギ仔魚でもまず錐体細胞が出現することが明らかにした。 (2)初期発育過程における光受容器の形成と他の感覚器の発達との相関(例えば松果体における光受容が内耳の日周輪形成に影響を及ぼすかどうか)を明らかにする目的で、アユおよびニジマスの内耳有毛細胞の刺激受容部である感覚毛の形成、および耳石日周輪形成に関する微細構造学的解析を行い、アユでは証左が得られなかったがニジマスでは耳石輪紋の形成が松果体の光受容能の形成と関連するものと示唆された。 (3)初期発育過程において顕著な生態適応あるいは浸透圧調節を行うアユ、ヒラメ、ウナギのような魚種に注目して、網膜の細胞分化の過程や明・暗順応状態で、浸透圧調節物質と考えられるタウリンの免疫細胞化学的局在の解析を行い、タウリンが光受容細胞の分化、桿体細胞外節の保護、シナプス伝達の調節等に重要な役割を担っていることを指摘した。 (4)魚類の網膜視蓋シナプスは恒常的に作り替えられていると考えれるので、網膜視蓋シナプスの可塑性の特性を明らかにするために、若いキンギョの視蓋スライス標本を作製し、灌流リンガー液中で電気刺激に対する視蓋ニューロンのシナプス応答を調べ、増強の発現は先行刺激によって妨げられることを明らかにし、NMDA受容体の関与およびアデノシンの作用についても電気生理学的に解析した。
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