研究概要 |
大阪湾・伊勢湾・東京湾などの都市化した内湾には,人間活動起源(陸域起源)の窒素・リンが大量に流入し,海域を富栄養化させ,水質を悪化させている.一方,著者らの研究により,大阪湾・紀伊水道系には,外洋からも天然の窒素・リン(外洋起源)が流入していることが示された.しかしながら,これら窒素・リンの大阪湾での行方は不明であり,また大阪湾の窒素・リン収支も確立していない. 本研究では,大阪湾における窒素・リンの収支を明らかにし,また窒素・リンの最終的な蓄積地を明らかにする.これを元に,富栄養化における人間起源の窒素・リンの寄与割合を明らかにし,人間起源の窒素・リンの削減による水質改善効果を算定できる水質予測・管理モデルの開発を行う.また,窒素・リン輸送量の実測は,海外でもまだほとんど行われていない技術であるので,測定技法の開発もあわせて行う. 本研究では,大阪湾を囲む明石海峡断面および友ヶ島水道断面において窒素・リン輸送量の測定を四季にわたって行った.また大阪湾を東西に分ける断面(神戸-貝塚間)においても輸送量調査をおこなった.さらに大阪湾と外洋をむすぶ紀伊水道において,外洋起源の窒素・リンの流入機構の研究調査を行った. これらの結果,下記のことが明らかになった. 1.大阪湾を東西に分ける断面(神戸-貝塚間)では窒素・リンともに流出であったが,その量は陸起源の負荷量よりもはるかに小さい.このことは,流入した窒素・リンのほとんどが湾奥部に堆積し,ここが窒素・リンの最終集積地となっていることを強く示唆している. 2.明石海峡では窒素・リンともに流入,友ヶ島水道では窒素・リンともに流出であった.友ヶ島水道の流出量は流入負荷量よりも小さく,大阪湾から紀伊水道に流出する窒素・リンは少ないことを示している. 友ヶ島水道では,海峡部においても成層があり,窒素・リン輸送機構において密度対流が寄与する可能性が示された.
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