日本の内湾では赤潮による深刻な水産被害が継続し、赤潮の発生防除対策の確立が急務となっている。本研究では、赤潮藻類の有機態窒素・リン利用能とその生態学的意義をしらべ、赤潮鞭毛藻の選択的増殖に及ぼす有機態窒素・リンの寄与を解析し、防除対策の基礎資料とすることを目的とした。 赤潮藻類Gymnodinium mikimotoi、Skeletonema costatum及びHeterosigama akashiwoはいずれも窒素源として有機態窒素を利用する能力を有するものの、その利用能は種によって相当異なり、3藻はトリプトファン及びグルタミン酸を利用したが、尿素利用能はG.mikimotoiのみに認められた。また、有機態リンの利用能はS.costatumとG.mikimotoiでは類似し、リン酸モノエステルを利用できるが、H.akashiwoはこれを利用できなかった。これらの有機態リン利用能はアルカリフォスファターゼ産生能の有無と対応した。前2種のアルカリフォスファターゼ活性は環境水中のリン欠乏によって顕著に増大し、その活性はきわめて高いことがわかった。 一方、有機汚濁海水中の有機態窒素・リン濃度はかなり高く、赤潮鞭毛藻の増殖に対する有機態窒素・リンの寄与は、無機態窒素・リンのそれに匹敵すること、有機態リンのうちではアルカリフォスファターゼの基質となり得るリンが30%以上を占めることがわかった。また、赤潮が多発する有機汚濁水域(浦ノ内湾)ではプランクトン増殖期にプランクトン細胞由来のアルカリフォスファターゼ活性が高く、有機態リン利用能を有する種が優占した。 これらの結果、赤潮種の有機態窒素・リン利用能は種によって相当異なり、これらの差異が現場の海水中で起こる赤潮種の選択や種の交代現象に反映されることがわかった。
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