【目的】マアナゴ(Conger myriaster)はわが国沿岸の浅海域に広く分布する重要魚種であるが、産卵や初期生態に関する知見はほとんど無く、いつ、どこで産卵し、葉形仔魚期をどのような海域で過ごし、沿岸域に加入してくるのか等、資源管理上重要な情報は皆無である。本研究は、マアナゴ葉形仔魚の耳石の微細輪紋構造とストロンチウムやカルシウム含量などの微量元素分析情報を組み合わせることにより、加入開始のタイミングをはじめとする初期生活史のイベントを日齢レベルで読み取り、仔魚の加入機構を明らかにすることを目的とする。 【結果】マアナゴ葉形仔魚の耳石周辺部の内側にほとんどの個体で輪紋の不連続帯(チェックマーク)がみられた。このマークは外部形態からみた変態を開始する以前に形成され、このマークを境に耳石の成長方向が変化した。また、Sr/Ca比はこのマーク上で最大値を示し、仔魚に劇的な生理変化が生じたことが示唆され、このマークは仔魚が沿岸域へ加入した際に形成されたものと考えられた。 地域間でこのマーク形成までの日齢を検討すると、瀬戸内海加入群は土佐湾のものと比較して有意に高齢であり、内海のマアナゴ資源は外海由来であることが示唆された。土佐湾と仙台湾で同時期に加入したものを比較すると、ほほ同じ成長履歴を示し、本種の産卵場が複数あることが示唆された。また、熊本県八代海において、加入初期から終期にいたる個体の耳石解析を行ったところ、早期加入群ほど大型で、かつ日間成長率も良いことが明らかになった。日齢から逆算した孵化日組成から、八代海加入群の孵化日は1O月〜1月と推定された。 来年度に行うDNAによる集団構造の解析に備え、本年度に購入したサーマルサイクラ-等の備品を用いて、葉形仔魚筋肉からのDNA抽出およびPCRの条件等を検討するために予備実験を行い、実験系のシステムを確立した。
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