【目的】マアナゴ(Conger myriaster)は、わが国沿岸の浅海域に広く分布する重要魚種である。近年、本種は漁獲量の減少傾向が顕著となっているが、再生産や初期生態等の資源管理上重要な知見はほとんど無い。本研究は、各地に加入した葉形仔魚を用いてmtDNAの塩基配列情報からマアナゴの集団構造を明らかにする。 【方法】供試魚は熊本県八代市、宮崎県延岡市、福島県相馬郡の各地先で採捕されもので、齢査定より10月〜12月に生まれた仔魚を用いた。マアナゴ仔魚筋肉から全DNAを抽出し、コイとウナギの塩基配列情報からチトクロムbの後端部からD-loop領域中央部までのプライマーを設計し、約700塩基を増幅後、ダイレクトシーケンス法により5'および3'末端双方から解析を行った。 【結果】チトクロムb62塩基、tRNA133塩基、D-loop領域396塩基、合計591塩基の塩基配列が決定された。チトクロムbおよびtRNAにおける変異サイトは5カ所とわずかであったが、D-loop領域では31カ所の変異サイトが認められ、分析した16個体から16のハブロタイプが出現した。D-loop領域における全個体間の塩基置換率は0.25〜4.55%、塩基多様度は1.88%であり、マアナゴのD-loop領域には多くの変異が蓄積していることが明らかになり、集団構造の解析に有効と考えられた。同一採集地内での塩基多様度は熊本で1.15%、宮崎で2.06%、福島で2.53%であった。各採集地内および採集地間の塩基置換率を比較したところ、いずれの組合せにも有意差は検出されなかった。また、それぞれの採集地を特徴づける塩基置換も検出されなかった。以上より、mtDNAのD-loop領域からみると集団間には高頻度の遺伝的な交流があることが示唆され、マアナゴの資源管理を遂行するに当たっては本種が全体に均質な遺伝的組成を有していることを念頭において行うことが必要と考えられた。
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