【目的】マアナゴ(Conger myriaster)はわが国沿岸の浅海域に広く分布する水産要種であるが、産卵や初期生態に関する知見はほとんど無く、資源管理上重要な情報は皆無である。本研究は、アマナゴ葉形仔魚の耳石の微細輪紋構造からの仔魚の加入機構を明らかにし、さらに各地に加入した葉形仔魚を用いてmtDNAの塩基配列情報からアマナゴの集団構造を明らかにする。 【結果】アマナゴ仔魚の微細構造を精査したところ、仔魚が沿岸域へ加入した際に形成されるチェックマークが認められ、これをCFマーク(Coastal front mark)と呼ぶことを提唱した。加入地域間でこのマークまでの日齢やマーク形成以降、変態開始までの期間等を検討することにより、内海のアマナゴ資源は外海由来であること、本種の産卵場が複数あること、変態開始日齢に100日以上の個体差がみられることなどが明らかになり、本種の加入機構の一端が解明された。また、孵化日組成から、本種が秋から冬に産卵していることが明らかにされた。 熊本、宮崎、福島で採捕されたアマナゴ仔魚筋肉から全DNAを抽出し、ダイレクトシーケンス法によりチトクロムb62塩基、tRNA133塩基、D-loop領域396塩基、合計591塩基の塩基配列を決定した。チトクロムbおよびtRNAにおける変異サイトは5カ所とわずかであったが、D-loop領域では31カ所の変異サイトが認められた。D-loop領域における全個体間の塩基置換率は0.25〜4.55%、同一採集地内での塩基多様度は、熊本で1.15%、宮崎で2.06%、福島で2.53%であった。各採集地内および採集地間の塩基置換率を比較したところ、いずれの組合せにも有意差は検出されなかった。また、それぞれの採集地を特徴づける塩基置換も検出されず、mtDNAのD-loop領域からみるとマアナゴ集団間には高頻度の遺伝的な交流があることが示唆された。
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