栽培種のスサビノリ(T-14株)に、ノリ養殖の重要な妨げになっている赤腐れ病、壷状菌病に耐性の形質を付与する目的で、T-14株と養殖品種オオバアサクサノリ・アマノリ属野生種(カイガラアマノリ、ヒロハマルバアマノリ)、またT-14株と緑藻アサオ属海藻(アナアオサ、リボンアオサ)との細胞融合を行った。各組合せの異種融合細胞を補強海水寒天培地及び補強海水培養液PES中で培養し再生葉状体を得た。その葉状体の中から親株スサビノリに類似する色彩、葉形の個体を選抜し、それらから放出される単胞子を用いて系統株として固体した。それぞれの系統株の自家受精によって得た糸状体を成熟させ放出された殻胞子の発生体を育て、F1葉状体を得た。一部の株では、同様な手順でF2葉状体も得た。融合細胞から発生した葉状体及びF1、F2葉状体については、主に赤腐れ菌Pythiumに対する抵抗性による選抜を行った。Pythiumに対する抵抗性は、新たに設定した抵抗性指数(葉体片をPythiumの遊走子懸濁液に一定条件下で浸して葉体片に形成される病斑数と1病斑の大きさを計測。抵抗性指数=病斑数×病斑の大きさ)によって比較した。その結果、T-14株とカイガラアマノリ、ヒロハマルバアマノリ、リボンアオサとの融合細胞からの再生体には、T-14株よりはPythium菌に対する抵抗性が高い株が含まれていた。それらのPythium菌抵抗性株は壷状菌(Olpiodipsis sp.)にも抵抗性が認められた。このような病原菌抵抗性の形質は自家受精によってF1、F2葉状体に引き継がれることが一部の株で確認された。しかし、カイガラアマノリ、ヒロハマルバアマノリ、リボンアオサのどのような遺伝子がT-14株に移入されたことにより病原菌抵抗性が高くなったか未解決であり、なお分析を行って検討している。病原菌抵抗性株はいずれも、T-14株に比較して成長がやや遅く、また遊離アミノ酸及び光合成色素の含有量も少ない傾向であった。
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