研究概要 |
昨年度に引き続き,コイ科の多回産卵魚であるタイリクバラタナゴの雌を個体識別し,水槽内で雄および産卵床となる二枚貝とともに飼育し,産卵管の伸長を指標として産卵(排卵)周期を調べた.産卵周期後期および産卵周期中期の個体を集め卵巣を摘出し,卵黄球蓄積をほぼ完了した大型の卵母細胞(次に排卵される卵群)と,卵黄球を含むそれ以外の小型の卵母細胞とに分け,生殖腺刺激ホルモン(GTH)とともに22℃で18〜24時間培養し,培養液中のエストラジオール17β(E_2)と17,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one(17,20β-P)を時間分解蛍光免疫測定法で測定した.その結果,産卵周期中期の個体では,卵黄蓄積を完了した大型卵母細胞も,それ以外の小型の卵母細胞も,ともにサケ下垂体抽出物の添加により,単位乾燥重量あたりほぼ同量のE_2および17,20β-Pを産生することが明らかとなった.これに対し,産卵周期後期の個体では,卵黄蓄積を完了した大型卵母細胞はE_2産生能が低下し,逆に17,20β-P産生能が著しく上昇していたが,小型の卵母細胞における17,20β-P産生能には大きな変化は見られなかった.したがって本種のような多回産卵魚では,1回産卵型のサケ科魚のように,排卵期に卵母細胞がE_2産生型から17,20β-P産生型へ急激に変化することはなく,両方のステロイドを産生できる移行期を経て,徐々に17,20β-P産生型に変化することが示唆された.また,LH型のGTHであるHCGは本種においてはいずれのステロイド産生についてもほとんど効果がなく,FSH型のGTHとされるPMSG(妊馬血清ゴナドトロピン)が,両ステロイド産生に高い効果を示した.また,海産の多回産卵魚であるベラ科のササノハベラについて,その産卵周期と脳内ステロイドとの関係を免疫組織化学的に調べ,若干の知見を得た.
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