本研究は、主要加工原料魚の一つであるスケトウダラ(Theragra chalcogramma)のミオシンの加熱凝集機構を、単離したミオシン、HMM、およびLMMを用いて解析したものである。先ず、加熱処理によるLMMの変性過程を円二色性スペクトルとα-キモトリプシン消化により解析し、このLMMのN端側2/3領域とC端側1/3領域のα-ヘリックスが50℃、5分間の加熱によりそれぞれ可逆的および不可逆的に崩壊することを明らかにした。このような加熱変性様式はミオシン尾部のLMM領域でも同様に認められた。次に、ミオシンやHMMおよびLMMの加熱変性に伴う疎水性の変化をANS蛍光の測定により解祈した。それによれば、ミオシンやHMMの疎水性は40℃以上の温度で加熱すると大きく増大するのに対し、LMMの疎水性はほとんど増大しないことが明らかになった。このことはスケトウダラ・ミオシンの加熱による疎水性増大の原因が主にHMM領域の変性に起因することを示している。さらに、ミオシンやHMMの場合、加熱による疎水性の増大に伴い著しい濁度の上昇が起き、大きな凝集体を形成することが明らかになったが、LMMの濁度はほとんど変化せず凝集体を形成できないと考えられた。一方、LMMはミオシンと混合した状態で加熱するとミオシンと共凝集体を形成することを発見した。この共凝集反応はLMMとHMMとの間では起こらなかったことから、LMMはミオシンの尾部領域との相互作用により共凝集体を形成すると考えられた。以上の結果に基づき、頭部領域での疎水的相互作用と尾部領域での分子間coiled-coil形成を取り入れたミオシンの凝集モデルを提示した。
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