磯焼けの持続要因として無節サンゴモによる他感作用物質(アレロケミカルス)の関与を想定し、磯焼け現象を化学物質の視点で明らかにすべく研究を行った。そこで、磯焼け地帯における紅藻サンゴモ類、付着珪藻類、コンブなどの大型海藻類およびキタムラサキウニなどの捕食者間の相互作用を制御しているアレロケミカルスを探索した。 その結果、サンゴモが微量化学物質を巧みに操って磯焼けの持続を仕組んでいるらしいことが分かってきた。すなわち、サンゴモは、コンブ配偶体の初期発生を抑制する物質を分泌して、高海水温の年にはサンゴモ上へのホソメコンブの入植を阻害する。さらに、サンゴモは、ウニ幼生を誘引し、且つ着底・変態を誘起する物質(グリセロ糖脂質)を分泌し、また、この物質は、ウニ稚仔や成体の摂食刺激物質でもあるためにウニを磯焼け地帯に棲息させ続け、その強い摂食圧(オーバーグレージング)によって磯焼け状態を持続させていると考えられる。なお、今のところ詳細は不明であるが、無節サンゴモ上の付着珪藻類もまた磯焼けの海底でサンゴモと同様にアレロケミカルスによって、キタムラサキウニ幼生の着底・変態を誘導し、また、コンブ配偶体の初期発生を抑制していることが明らかとなった。 磯焼け地帯は、「海の砂漢」でも「不毛地帯」でもない。磯焼けの海底でもそこに棲息する生物種間における関係が"食う-食われる"の食物連鎖ばかりではなく、種々の生物活性を発現する化学物質を介して多くの生物が多様な生態系を構成している。
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