研究概要 |
フグのように皮膚に鱗を持たない魚類の多くは体表が粘液で覆われており,粘液は物理的に皮膚を保護する他,皮膚に付着した微生物を洗い流す作用もある。この他,体表粘液中に存在するレクチンや溶血素などが化学的な防御の役割を果たしており,生理活性物質,とりわけ生体防御関連タンパク質が重要な働きを担っていると考えられる。そこで,本研究では生理活性作用としてプロテアーゼ阻害活性に着目し,その構造を明らかにするとともに,その分布を調べることを目的とする。 初年度(平成9年度)は,まず15科25種魚類の体表粘液についてプロテアーゼ阻害活性のスクリーニングを行った。各体表粘液に4倍量の蒸留水を加えた抽出液を試料とし,各種プロテアーゼ(トリプシン,α-キモトリプシン,エラスターゼ,カリクレイン,プラスミン,サーモリエシン,パパイン,ブロメライン,プロテアーゼXIV)に対する阻害活性はカゼインを基質として測定した。調べた魚種の中ではマフグ科魚種が総じて高い阻害活性を示した。用いたマフグ科5種(シマフグ,ゴマフグ,マフグ,コモンフグ,ヒガンフグ)では各種プロテアーゼに対する阻害スペクトルに魚種間で大きな差は認めらず,活性に個体差はあるもののトリプシン,α-キモトリプシンに対してはすべての検体が阻害を示し,最高値はそれぞれ25.51U/ml(マフグ),9.21U/ml(ヒガンフグ)であった。システインプロテアーゼあるいはメタロプロテアーゼに対する阻害活性は散見し,その活性値も低かった。現在,阻害活性の強かったマフグ体表粘液試料を用いて,トリプシンおよびパパインに対するインヒビターをそれぞれ精製中であるが,ゲルろ過クロマトグラフィーにおいて,前者の分子量は3万以上,後者は6000程度と見積もられ,複数のプロテアーゼインヒビターを含むことが示唆された。
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