研究概要 |
不飽和脂質分子の実質濃度が高く水素供与体が豊富に存在するエマルジョンのような水和状態と、逆に水素供与体の実質濃度が低い均質溶液では、1次酸化反応生成物であるハイドロパーオキサイド(LOOH)の生成機序が異なることを、生成したLOOH異性体の組成から明らかにしようと試みた。リノール酸メチル(18:2Me)をジクロロメタン溶液中およびTween20によるエマルジョン中で脂溶性アゾラジカル発生剤2,2′-azobis(2,4-dimethylvalero-nitrile)水溶性アゾラジカル発生剤2,2′-azobis(2-amidinopropane)dithydrochlorideで酸化した場合の、それぞれに生成したLOOH異性体の組成比を調べた。同様の2種類の反応系でαトコフェロール(α-Toc)共存下、非共存下におけるエイコサペンタエン酸エチル(20:5Et)のラジカル酸化を行い、生成したLOOH異性体の組成比を調べた。LOOH異性体は順相カラムHPLC-DPPP蛍光検出法を用いて定量した。LOOH異性体はマススペクトロメトリーで同定した。 HPLC-DPPP蛍光検出法により18:1Me、18:2Me、18:3Me、20:4Me、20:5Etおよび22:6Meから生成することが理論的にわかっている全てのLOOH異性体を分析できた。18:2Meの均一溶液中での酸比では13-c,t-、13-t,t-、9-c,t-および9-t,t-の4種のLOOH異性体が、組成比1:4:1:4で生成した。PVが58meq/kgまで上昇する約7時間の間、各異性体の組成比は変化しなかった。一方、18:2Meの水系エマルジョンにおける酸化では、上述の4種のLOOH異性体が組成比3:2:3:2で生成した。PVが110meq/kgまで上昇する約6時間の間、各異性体の組成比は変化しなかった。すなわち、18:2Meの均質溶液中での酸化では13-t,t-と9-t,t-LOOH異性体の生成率が高かった。このように、均質溶液中でトランス異性体の生成割合が高くなったのは、系中の水素供与体の実質濃度が低くかったためと考えられた。一方、20:5Etの水系エマルジョンにおける酸化では18-c,t-、15-c,t-、14-c,t-、12-c,t-、11-c,t-、9-c,t-、8-c,t-、および5-c,t-、の8種のLOOH異性体の生成率が高く、17-c,t-と6-c,t-LOOH異性体は生成しなかった。これに対して、α-Tocが共存すると新たに17-c,t-と6-c,t-LOOHの非共役2重結合をもつ異性体の生成が見られた。これは、20:5Etに対して高濃度のα-Tocがトコフェロキシラジカルを生成し、これが20:5Et LOOHの生成を促進したためと考えられた。
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