研究概要 |
産卵期のアユの筋肉のテクスチャーは,成長期のものと比べて顕著に劣化する。これまでの研究からこの原因は筋内膜コラーゲンの酵素的分解による可能性が示唆されていたが,その原因酵素については全く不明であった。そこで本研究においては、その同定を試みた。 昨年度の研究結果から,CM-セルロースクロマトグラフィーならびにゼラチンアフィニティークロマトグラフィーにより産卵期の養殖アユ筋肉から68kDaと62kDaのメタロ型の活性が検出され,これらの酵素が産卵期特有のコラーゲンの分解に関わっている可能性が示された。そこで,これらの酵素について性熟度と活性レベルの相関性を知るため,九頭川より採取した生殖腺指数の異なる雌雄アユ(雄,4.5〜8.8;雌,3.4〜14.3)筋肉抽出液のゼラチン分解活性をザイモグラフィー法により調べた。その結果25kDaの活性バンドが全ての個体で検出された。一方、雄では生殖腺指数が4.7および6.0の個体において,また雌では11.1と14.3の個体において68kDaおよび62kDaの活性バンドが強く誘導されていた。これらの結果は昨年度,養殖アユの筋肉から精製されたコラーゲン分解に関わると考えられる酵素が,天然アユにおいても産卵期の特定の成熟段階において発現していることを示唆していた。 また一方、産卵期におけるコラーゲン分解産物を同定するため、昨年度作製したアユ筋肉I型コラーゲンに対するポリクローナル抗体を用いて産卵期アユ筋肉コラーゲンの分解について検討したところ,68kDaおよび62kDaの活性が強く誘導されていた個体においてコラーゲン分解が進行している可能性が示された。今後はこれらの結果を踏まえて,コラーゲンの分解様式,特に初発反応に関わる酵素の同定が重要な課題となろう。また,アユ以外の魚においても同様の現象が見られるのかどうかについても興味が持たれるところである。
|